(ずがいていしゅよう)
頭蓋骨の下の部分を頭蓋底と呼びます。頭蓋底の外側に外頭蓋底、頭蓋骨の内側に脳を乗せている内頭蓋底(=頭蓋骨内)があります。頭蓋底は、頭部の最も深い部分と眼や鼻の後方の骨稜を形成するいつくかの骨で構成されています。この領域には、さまざまな種類の腫瘍が発生し増大する可能性があります。頭蓋底腫瘍は、症状を引き起こす可能性が高く脳や脳神経に圧力をかけるのに十分な大きさに成長した時に自覚症状が出現し、診断される事は多いです。頭蓋底腫瘍の治療は、頭蓋内の奥深く、脳、頭、頸部、脊髄の重要な神経や血管の近くで発生する可能性があるために、治療(手術)によって合併症や非常に思い後遺症を抱えてしまう可能性のある部位です.。
頭蓋底腫瘍は頭蓋内で発生することがほとんどです。頭蓋外で発生することもありますが、 それらは、頭蓋骨から発生するか、転移性脳腫瘍として認めれるものが多いです。頭蓋底腫瘍は、頭蓋底内の腫瘍の種類と位置によって分類されます。
内頭蓋底には、3つの大きなくぼみがあります(前頭蓋窩・中頭蓋窩・後頭蓋窩と呼ばれている)。前頭蓋窩は、眼球は入っているスペース周囲にある骨の天井にあたる部分と中央の鼻の後方の骨(鼻骨・篩骨・蝶形骨)により構成されている。中頭蓋窩は、前頭蓋窩後下方に蝶形骨体が正中にあり左右に分かれている。後頭蓋窩は、中頭蓋窩後下方に側頭骨の鱗部と後頭骨にある浅い凹状の部分です。脳神経の多くが走行し重要な動脈(椎骨動脈・脳底動脈)や静脈系循環(横静脈洞S状静脈洞・錐体静脈など)、脳幹が存在するスペースとなります。
▶ 髄膜腫、嗅覚神経芽細胞腫、副鼻腔癌
(ⅰ)中央部分;中央コンパートメントには、下垂体が位置する頭蓋底のサドル型の骨構造であるトルコ鞍が含まれています。 この領域に発生する腫瘍は鞍部腫瘍と呼ばれます。
▶ 下垂体腺腫、頭蓋咽頭腫、ラトケ嚢胞など
(ⅱ)左右部分;多くは側頭骨や硬膜、脳神経から発生した腫瘍が認めれれます。
▶ 髄膜腫、神経鞘腫(三叉神経鞘腫瘍など)
一般的な腫瘍として
▶ 髄膜腫、神経鞘腫(聴神経腫瘍など)、類表皮嚢胞
① 軟骨腫
軟骨腫は、頭蓋骨に見られる骨軟骨でできた非常にまれな良性腫瘍です(頭蓋内腫瘍の0.1〜0.2%)。 頭蓋底と副鼻腔の両方に軟骨が含まれています。 軟骨腫はこの軟骨に発生する可能性があります。比較的若い年齢に発生します(10歳〜30歳)。これらの腫瘍の多くはゆっくりと成長しますが、大きくなりすぎると脳内に浸潤もしく脳には強い圧迫をします。 まれに、軟骨腫が軟骨肉腫と呼ばれる癌状態に発展することがあります。症状は個人差がありますが、軟骨腫が発生すると、視覚的な変化や頭痛が生じることがあります。
② 脊索腫
軟骨腫や軟骨肉腫との鑑別が必要となる腫瘍です。頭蓋内脳腫瘍の0.5%で年間に100万人から200万人に1人程度に発生すると報告されています。成人の全年齢層に発生し、低悪性度腫瘍とされています。悪性の脊索腫として認められる事があります。腫瘍の性格とは別に、頭蓋骨の一部に限局する事は少なく脳神経や血管を巻き込む事が多いため、臨床的には治療が難しく悪性疾患の経過に似ることが多いです。
③ 孤在線維性腫瘍(SFT; Solitary fibrous tumor)
2016年より血管周皮腫、血管周囲細胞腫、血管外皮細胞腫、血管周囲腫は、SFTと名称が変わりました。全身のあわゆる部分に発生する間葉系の腫瘍です。頭蓋底腫瘍としてはかなり稀です。硬膜より発生することが多いです。病理所見により骨、肺、または肝臓に広がる可能性があります。
腫瘍が成長し頭蓋内の脳下垂体、視神経、頸動脈などの脳の重要な構造に圧力をかけるにつれて、症状はゆっくりと現れていきます。具体的な症状は、腫瘍の種類、位置、大きさによって異なります。例えば、頭蓋底(鼻根部の後方)に発生する腫瘍は、呼吸と嗅覚に影響を与える可能性があります。 下垂体の一部の腫瘍は視力、後頭部に近い部位では嚥下に影響を与える可能性があります。
一般に、頭蓋底腫瘍の一般的な症状は次のとおりです。
▶ 頭痛、呼吸困難、嗅覚の変化、かすみ目または複視、顔面の感覚障害、難聴、嚥下障害など
その他に含まれる症状には次のものがあります。
▶ バランスの喪失(ふらつき、めまいによる) ,吐き気と嘔吐、集中力低下・記憶障害など
頭蓋底腫瘍が発生する明らかな原因はありません。リスク要因には次のものが含まれる場合があります。
▷ 頭皮の強い感染症、または頭、首、または脳の腫瘍を治療するための頭への以前の放射線療法
▷ 特定の遺伝的状態
外来で自覚症状や症状、既往歴や家族歴をお聞きした後に画像検査を行います。嗅覚、視覚、聴覚、嚥下(飲み込み)の異常があれば眼科や耳鼻科などでの診察や検査が必要となります。
(ⅰ)頭部CT)検査
特に骨の状態を診断するために必要な検査です。頭蓋底の骨の評価を行います。
(ⅱ)頭部MRI検査
頭蓋底部の腫瘍性病変の大きさや周囲構造物との詳細が評価を行います。また、腫瘍の成分により通常の組織と異なる信号を捉える事ができるため、腫瘍の伸展を評価する事ができます。
(ⅲ)骨シンチ
放射性物質を血流に注入する全身の骨検査です。 腫瘍が物質を吸収し、特殊なカメラを使用してコンピューターを使用して画像を生成します。 このようにして、医師は骨腫瘍の位置を特定し、悪性の場合には他の臓器への腫瘍の広がりを検出できます。
(ⅳ)PET(Positron Emission Tomography):陽電子放出断層撮影
細胞の成長に伴う変化を検出できる検査です。 CT と組み合わせて使用されることが多いPET/CT は、放射性グルコースを注入された腫瘍細胞を識別し、脳の正常な部分と比較できるようにします。
(ⅴ)内視鏡検査
鼻腔や喉の運動を調べます。
頭蓋底腫瘍が診断されると、各患者に最も適切な治療方針を決定して治療を実践するために専門医の診察が必要になります。一般的には次の一連の処置が推奨されます。
頭蓋底腫瘍および状態の治療には、観察、手術、および放射線療法の任意の組み合わせが含まれる場合があります。腫瘍の位置、腫瘍の範囲、良性か悪性か?(画像を含む検査での診断)、治療オプションに関する患者さんの一般的な健康状態や希望にて決めていきます。
重大な症状を引き起こさない小さな頭蓋底腫瘍の場合、医師は経過観察を勧める場合があります。 時間が経過しても腫瘍が成長したり機能に影響を与えたりしなければ、それ以上の治療は必要ないかもしれません。
開頭術を含む、頭蓋底脳腫瘍を治療するためのさまざまな外科的アプローチがあります。頭蓋底腫瘍のほとんどの患者 (約 90%) は、手術で治療できます。鼻から内視鏡を用いて腫瘍にアクセスし、顔や頭蓋骨を大きく切開することなく腫瘍を除去するのに役立ちます。他の低侵襲アプローチでは、耳の後ろからの小さな切開で脳または頭蓋底の腫瘍に到達できます。これには、福島孝徳先生が考案した多くの頭蓋底手術の他に鍵穴手術が含まれます。患者さんの腫瘍が良性で、脳神経外科医が安全に完全に切除できる頭蓋底の一部にある場合、必要な治療は手術だけです。
この複雑な病変への手術は、頭蓋底の解剖研究とその成果と臨床応用による脳外科手術の開発と発展、さらに医療機器の開発(脳外科用手術顕微鏡や手術器機)により、ここ50年位で大きく変化し続けています。さまざまな頭蓋底の病変に対しての手術方法が開発されるのと同時に、手術技術が構築されてきています。さらに、内視鏡、放射線治療、生物学的な診断より非侵襲的に病変をどこまで治療して管理していくかという段階にあると思います。頭蓋底腫瘍の中には良性腫瘍、中等度悪性腫瘍、悪性腫瘍があります。これらによっても、治療戦略が異なります。
頭蓋底腫瘍に対しての手術方法は、福島孝徳先生が約30年間で築き上げた様々な手術アプローチを使用して行っています。
前頭蓋底到達法/経海綿静脈洞到達法/前・中・後中頭蓋窩到達法/経後静脈洞後頭蓋窩到達法/経乳様突起前静脈洞後頭蓋窩到達法/経静脈洞到達法など様々な手術法でより確実で、安全な手術方法を選択して最良の結果を出すように心がけています。
手術アプローチは、施設や医師によっても様々であり、すべてが原法と同じではありません。脳への保護や出血のコントロールの仕方、止血方法、使用する医療機器も違います。よって、手術を受ける前には、手術アプローチだけの一般的な事だけではなく、詳細に説明を聞くことをお勧めしています。
また手術の際には最新の医療機器、ナビゲーションシステム、超音波機械、福島式頭蓋底腫瘍専用の医療器具の数々、また腫瘍の性質によってはサイバーナイフの追加治療など様々な方法で腫瘍と戦い治療を行います。
悪性腫瘍や、外科的切除が安全でない脳の領域にある腫瘍に対して、手術後に放射線療法の使用を患者さんに勧める場合があります。 放射線療法には、高精度放射線治療定位放射線治療や粒子線治療(陽子線、重粒子線)があります。