(ぜついんしんけいつう)
舌咽神経とは、三叉神経と同様に「痛み」などの感覚を直接脳へ伝える神経です。三叉神経が顔面や口腔内、舌の感覚を担当しているのに対し、舌咽神経は、字の通り舌咽;舌(後方1/3)、咽(のど)を中心に耳の中半分の感覚を脳へ直接伝達する神経です(左右に1本ずつあります)。この舌咽神経も三叉神経同様に、各部位から細かく走行してる神経が少ずつ集まり1本の神経となり頭蓋骨の中へ入っていきます。この舌咽神経が頭蓋骨の中を通り、脳に入る手前の部位に問題が生じると、くびや咽(のど)、舌、耳などに「痛み」を感じるようになります。
2). 舌咽神経痛の原因
舌咽神経が脳へ入る手前の部位(神経根部)に何らかの強い圧迫により、舌咽神経が刺激され、脳が強い痛みとして感じてしまうことによります。圧迫の原因は、舌咽神経周囲を走行している血管による圧迫や舌咽神経周囲に発生した腫瘍(類上皮腫や神経鞘腫、髄膜種など)による圧迫が原因となっている事があります。
3). 舌咽神経痛の症状
三叉神経痛のような顔面の痛みではなく、顔面から頚部(あごの下~くび)や口の中(舌根部~口の中~のど)の痛みの場合は、「舌咽神経痛の可能性があります。物を食べたり飲む時に、これらの部位や耳の周囲に痛み認められます。この痛みによって、十分に食べたり飲んだりすることができずに、短期間で体重減少や脱水症となる例もあります。三叉神経痛の痛みと間違えやすい(第3枝)場合がありますが、きちんとした診察で診断が可能です。
4). 舌咽神経痛の診断
前述した特徴的な症状と高性能MRI(1.5テスラ、3テスラ)での舌咽神経付近の細かくスライスした断面画像と特殊な撮影法により、舌咽神経への血管の圧迫や腫瘍の存在を確認します。舌咽神経自体は細く、周囲の立体的構造も複雑であるため、必ず画像診断ができない事もあります。耳鼻咽頭科を受診して咽(のど)の状態を診察してもらう事も大切です。治療経験の多い脳外科医の慎重な診断が必要になります。
5). 「舌咽神経痛」の治療方法
(1). 血管の物理的な圧迫による症状なので、最も効果的な治療は外科的手術による、微小血管神経減圧術Microvascular transposition: MVT (またはMicrovascular
decompression: MVD)という方法です。これは顔面痙攣や三叉神経痛と同じ治療法です。手術により神経を圧迫している血管を剥離して神経から剥がし、場所を移動する事により、神経の圧迫を解除して痛みの原因を取るという手術方法です。根本的な治療になるので、最も効果的な治療になります。
(2). お薬による治療方法もあります。カルバマゼピン(商品名テグレトール®)という主にてんかんの治療薬での内服で効果があります。痛みが完全に消失できなくでも緩和させる事が可能です(痛みが軽度~中等度の場合)。しかし、薬の副作用(肝機能障害・めまい・ふらつき、重症になると全身の臓器の機能が悪くなるStevens-Johnson 症候群があります)、痛みの増悪に伴う薬の増量に限界が生じた場合は、内服治療の継続はできません。
6). 舌咽神経痛の手術法(福島式 鍵穴手術)
皮膚の切開は、耳の後ろ下方(髪の毛のある部位)に 約3~4cmの小さな切開のみで行います。無剃毛手術のため(髪の毛は、切らずに剃る事もしません)手術後傷が目立つ事はありません。頭蓋骨に直径2cm程度の穴を空けて、舌咽神経が脳へ入り込むまでの走行を頭蓋骨内側と脳の間の隙間から確認します。そして、舌咽神経を圧迫している血管を丁寧に剥がし血管が神経に当たらないように場所を移動させて、固定します。手術時間は2時間前後です。
血管の固定にはテフロンという素材を使い血管を包む細いタオルのような物を作り、血管を巻いてテフロンを他の部分に付ける(フィブリンのりという特殊なのりを使ってのり付けしてきます)という方法を行っております。これは、私の師である福島孝徳先生(DUKE大学)が、この30年の手術経験の元で確立した非常に侵襲の少なく、有効かつ安全な手術方法です。